郵便配達はベルを鳴らさない

平均よりちょっとだけ多めに映画を観る人間の雑記

この世で確かなことが1つだけある、人は殺せる 『鎌倉殿の13人』感想

次の大河が始まる前に滑り込み感想。
※『ゴッドファーザー』のネタバレがあります

『鎌倉殿の13人』が終わった。
結構Twitterで話題になっていた気がするし、私の友人たちの視聴率もまあまあ高かった気がする。私もほぼ全話リアタイ視聴(壇ノ浦だけ見逃した)した。それから熱心な視聴者の友人に連れられて鶴岡八幡宮大河ドラマ館にも行った。

私はわりと歴史が好きな方だったので大河も何本かは観たことあったが、そのほとんどが戦国大河である。鎌倉時代大河ドラマになると聞いた時に、どういう展開になるのかさっぱりわからなかった。日本史の教科書以上の知識がなかった。
平家が滅んで、義経が平泉で死に、そのうちに源氏が三代であっという間に途絶え、その後北条氏が実権を握って承久の乱があり、三浦や安達あたりが滅亡して、元寇で幕府はボロボロ。そして『太平記』の世界線に続く。真田広之かっこよかったなあ(脱線)

ついでに三谷幸喜が「北条義時を『ゴッドファーザー』のマイケル・コルレオーネを参考にして描いている」というのでマジで? と思った。二代執権とマフィアの三男坊!? どこか似てる要素あるの!? と1月くらいには思っていた。『ゴッドファーザー』は大好きな映画なのでわりと見返している自信があるが(以前にも少し書いたけれど)、さっぱりそれっぽさを感じられないのだが……と思っていた。

tochterdeskino.hatenablog.com

観終わった今「わかる~~」しかない。
時政パパが「みんなの笑顔が一番!」みたいなことを言いながら、りくにいろいろ煽られて結果として北条家が権力を握っていくのとか、ヴィトー・コルレオーネが家族のためを思って結果的にマフィアになったやつの究極ピタゴラスイッチバージョンだ……。でも義時が頼朝からいろいろ学んでいるのも踏まえると、『ゴッドファーザー』のヴィトー的ポジションは時政パパと頼朝で分割かもしれない。そしてその組織を守ろうとすればするほど家族がどんどん離れていくのは完全にマイケル=義時の構図である。
政子は義時の傍にいるポジションだからコニーかな、と思った。でも、最終回で義時がうっかり今まで消した13人にうっかり頼家を挙げてしまい、「うすうすそう思っていたけど」と政子が言うシーンで認識が変わった。そのシーンがゴッドファーザーPart1の最後の場面を彷彿とさせた(「コニーの夫を殺したのか」とケイに問われ、「殺してない」と答えるマイケル。しかし「ドン・コルレオーネ」と呼ばれるマイケルのことを、何かを悟ったような目で見つめるケイの前で扉が閉められる)。なので政子はケイっぽさもあるかな(特にケイはファミリーが非合法なビジネスをやっているのが嫌みたいだし、殺しを嫌がる政子とそこも重なるかな)、と思ったけれど、実のところどうなんだろう。
そういえば大江殿はトム・ヘイゲンらしいですね。ブレーンって感じがわかる。

三谷幸喜といえばコメディ、という認識があった。大河ドラマとしては前回作の『真田丸』もけっこう軽妙なやりとりがあった覚えがある(目の不自由な大谷吉継のために発言のあとは名乗ろう! という流れになって、細川忠興伊達政宗が毎回律儀に名乗っていたシーンが好き)。
がしかし、コメディで発揮される「予想だにしない展開に落とす」、そして人を笑わせるという技術が、悲劇の方向性でも活きることを2022年、学んだ。
個人的な地獄回は大姫と蒲殿の退場回(第24回)である。大姫のことについては「そりゃあんなにイケメンな冠者殿(源義高)のこと忘れられんわ」とも友人とよく言っていた。また、史実で義高の死後、大姫は体調を崩しがちになり早逝したことも知っていた。
その一方で『鎌倉殿』で大姫はスピリチュアル系女子になったので、ずいぶんマイルドな描き方だなと思っていた。そして作中、巴御前にも勇気づけられ、あれこのまま入内する? とおもいきや丹後局圧迫面接である。怖すぎてテレビ画面の前で震えた。この世から面接なんてなくなればいいと思う。生きることを拒否した大姫はそのまま弱って息絶え、もうこの時点ですごく辛いのに、序盤で「助かった」と思っていた蒲殿がとんだとばっちりで死んだ。何食べたらこんな脚本思いつくんだろう。

個人的に印象に残った登場人物は、第一に冠者殿こと源義高である。市川染五郎がめちゃくちゃかっこいい。梨園にこんな美少年がいたのかと衝撃だった。なんなら先述の友人と六月大歌舞伎の第二部に足を運び、彼の演じる『信康』を観た。信康でも悲劇の貴公子枠だったのでいつか時代物でハッピーエンドな役を演じてほしい。さらに八月納涼歌舞伎の弥次喜多の配信も観た。活躍を見守っていきたい……。
ちなみに彼のインスタは美の宝庫である。シュウウエムラの広告とか超美しいです。

あと純粋に物語上の立ち回りで興味をもったのはのえ。彼女がどうしてそもそもあんなに権力欲が強くなったのかが気になる。『鎌倉殿』に出てくる女性陣は行動理由が誰かしらへの「愛」であることが多いように見えたので、のえは少し異色な存在に写ったし、もうちょっと掘り下げが見てみたかった気もする。

三谷幸喜の脚本の魅力はテンポ感や軽妙さなのかなとなんとなく思っている。たしかに観ていて楽しいし、大河ドラマ初視聴の友人が「初めての大河だけど楽しかった! 三谷幸喜、歴史得意じゃない人のためにいろんな時代劇書いてほしい」と言っていたので、肩の力を抜いて楽しめる(人が死にまくる辺りは内容的にともかく、基本的な作劇が)ように思う。私は時代劇に重厚感などを求めるタイプなので、脚本がめちゃくちゃすごいのはわかるし良い作品だとは思うけど、ごく個人的な好みとは違うなと思った(フランス料理を食べて「イタリアンのほうが好みかも」と言っているような感じという自覚はある)。でもやっぱり作品は面白いので、また三谷脚本の大河が放映されれば観たい。

余談だが、周りの友人達に好きな大河は何? と聞いたら直江兼続好きからは『天地人』、真田信繁(幸村)好きからは『真田丸』と返ってきた。私は『独眼竜政宗』が好きだけど、『麒麟がくる』は斎藤道三が好きすぎて各話5回以上は観た。おわり。