郵便配達はベルを鳴らさない

平均よりちょっとだけ多めに映画を観る人間の雑記

2024年観た映画の振り返り

もう早いもので年の瀬である。
この1年間観た映画について超特急で振り返ろうと思う。

海の上のピアニスト

オッペンハイマー

大日本スリ集団

酔いどれ天使

古都

さらば友よ

生きる歓び

ビッグ・ガン

冒険者たち

黒いチューリップ

ル・ジタン

仁義

フリック・ストーリー

パリの灯は遠く

フィリップ

プリンセス・シシー

若者のすべて

あの胸にもういちど

クリスティーン(恋ひとすじに)

ひまわり

去年マリエンバートで

 

忙しい1年だったせいもあるが、大学時代は年間100本くらい観ていたことを思うとかなり数が少ないラインナップである。再見も含めれば『山猫』や『サムライ』、暗黒街シリーズも加算されるのでもう少し本数は増える。この中で感想を文章化できたものもかなり限られている。ここ数年ずっと思っているが、社会人って本当に時間ない! CANMAKE TOKYO!

せっかくなので、感想を個別の記事としてまとめられなかったものについて覚えている範囲で各映画の感想を述べておこうと思う。公式のものと思われるトレーラーが発見できたものは貼っています。ネタバレは、たくさんあります。

オッペンハイマー Oppenheimer(2023)

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ノーラン作品は『ダンケルク』観て以来。時系列の行き来が頻繁で頭の中を整理しつつ観た。トリニティ実験が成功したときの演出が(当然オッペンハイマーたちにとってはそうなのだろうけど)スポーツ系作品で甲子園優勝決めましたみたいな方向で「うわあ」と思った。彼の奥さんの「自分がしでかした結果に同情しろと?」というセリフに集約されている気がする。
これは作品自体から離れるが、科学者が主役の映画作品ならヴェルナー・フォン・ブラウンとか観てみたいなと思った。インディ・ジョーンズ最新作でマッツ演じるフォラー博士はブラウンがモデルだったらしいが、あれはおそらくブラウン本人というよりはブラウンの経歴・立ち位置を基にしている気がする。なので、ブラウンの人生そのものを題材にした映画、どこかで誰かが作ったりしないかな~と思う。


大日本スリ集団 (1969)

主人公。平平平平で「ひらだいらへっぺい」と読むらしい。そんなことある?
関西弁を話すフランスこと平田昭彦、馴染みがなさすぎて頭大混乱。そんなフランスはスリの現場が警察にバレて逃走劇を繰り広げる最中に車に轢かれて死んでしまう。轢かれた死に際でもなおおそらくスリの獲物を狙ってか動いていた手が印象的だった。なんやかんやで絶妙なバランスだった平平と刑事の船越の関係も、この復讐から周囲を巻き込む形で均衡が狂っていく。しかしスリ集団にも互助会みたいなのがあって、捕まってリ死んだりしたときの保障があるのはちゃんとしてるなと思った。マフィアとかもそうか。


酔いどれ天使 (1948)

志村喬、『ゴジラ』や『七人の侍』あたりの思慮深く一歩引いて周りを観察しているとうな賢者のイメージが強かったのでブチギレ系の役でびっくりした。あと若い頃の三船敏郎がまさしく二枚目だった。いつも60年代以降の映画でしか観たことがなかった。最後の方のペンキまみれになりながら岡田と争う場面でなんだか女殺油地獄を思い出した。そして清純さがセーラー服着て歩くがごとし久我美子


古都 (1980)

山口百恵のことは好きで『蒼い時』も持っているしカラオケでも彼女の曲はしょっちゅう歌うのだが、映画作品を観るのは初めてだった。呉服問屋の娘と北山杉の娘の一人二役で、メイクや衣装の力もあろうが「こんなに佇まいって変わるんだ」と驚かされた。北山杉の世界線の百恵ちゃん、三浦友和とくっつくのかと思ったらそんなことはなかった。


黒いチューリップ La Tulipe Noire(1964)

黒いチューリップって呼び名ちょっとかわいいかもしれないと思った(チューリップという花へのイメージが童謡か球根バブルしかない)。ビジュアルが完全に後年演じるゾロと同じ。どうやらデュマ・ペールの小説が原作らしいが大幅に脚色している模様。この作品もアラン・ドロンによる一人二役


プリンセス・シシー Sissi(1955)

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ミュージカル好きとしては『エリザベート』で馴染み深いシシー(シシィ表記のほうが個人的に馴染みがある)こと皇后エリザベート。ちょっとクスッとできる要素もあり、なんだか「たぶんディズニーあたりがエリザベートを題材にしたらこんな雰囲気になりそう」と思いつつ観ていたが、皇太后ゾフィーとの軋轢の影もしっかり描かれていてよかった。正式に申し込まれてしまったらシシーが断れないのを知った上でやや強硬策として婚約を申し込むフランツに「おい!!!!!!!!!!」と思いつつ、ゾフィーとシシーの対立する場面では「母上、私が(宮中でのしきたりについてシシーに)説明します」と間に入るなど、そこはえらいと思う。プリンセス・シシーは3作あるそうだが、残り2作も気になる。
ちなみに私は『ルートヴィヒ』でロミー・シュナイダーが演じるエリザベートも好きである。美しく、それでいて現世とはどこか1枚ヴェールを隔てたところに居るようなエリザベート。『ルートヴィヒ』もスクリーンで観てみたいが腰が終わりそう。

あの胸にもういちど The Girl On A Motorcycle(1968)

マリアンヌ・フェイスフルのやつ。素肌にライダースーツなんてそんなこといいんですか!!? どうやら峰不二子のファッションの元ネタらしい。納得。バイクの乗り方を教えてもらい、贈られたバイク(しかも結婚祝いらしい。とんでもねえな)で不倫相手の元へ通うのも……そんなこといいんですか!!? バイクの名前がディオニュソス号なのもまたいい。この作品のアラン・ドロンみたいな出で立ちの大学教授が現実にいたら私は間違いなく留年しまくっていたか、かっこよすぎて講義に全力で励み優秀な成績を取ったかの二択であろう。

クリスティーン Christine(1958)

別タイトルは『恋ひとすじに』。Prime Videoでは原題そのまま『クリスティーン』で配信されていた。日本語字幕がバクか何かで完全に他の作品のものが流れていたので、英語字幕でなんとか観た。音声フランス語で字幕英語、私の無きに等しい外国語パワーが試されている。人妻との関係を終わらせるに終わらせられない若き将校アラン・ドロンが、ケリをつけるべく訪れたウィーン・オペラ座でかかる演目が『ドン・ジョヴァンニ』(ドン・ファンとも)なの洒落てません? あとオペラ座の場面でフランツ・ヨーゼフが登場した。詳しい説明もなしにビジュアルでわかるのすごいと思った。肖像画そっくりのメーキャップだった。1906年の設定らしいので、エリザベートが暗殺されて数年経っているはず。ところでシシーにそっくりな少女(もちろんロミー・シュナイダー)が客席に座っていると思うのですが……。

ひまわり I Girasoli(1970)

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どんなに忘れられない人、戻りたい過去があったとしても人生は続いていくんだなという哀しさがあった。てっきり『シェルブールの雨傘』みたいに、最後に想い人のその後を知ったところで終わるのかと思っていたが、知った後がむしろメインとも言えるかもしれない。
ジョヴァンナとアントニオが愛し合うようになる過程が想像以上に早かった。しかし『ロミオとジュリエット』も5日間の話らしいし、愛が燃え上がるのに時間はいらないのかもしれない。24個の卵を使った特製オムレツのシーンなんか幸せの象徴である*1
それからロシア戦線でのシーン、雪原の白さと兵士の黒い人影の画面に赤い旗が翻るところがなんとなくサイレント映画のフィルムの染色*2を思わせた。
個人的に気になったのは作中の時間経過である。特にジョヴァンナがアントニオの住む村を訪ねてから、アントニオ一家が引っ越したりアントニオがジョヴァンナに会いに行くまで。おそらく1年以上は経っている気がする。それと同時にアントニオはどの時点でどれくらい記憶が戻っていたのかも気になった。ジョヴァンナが駅で落としていった自分の写真と裏に書かれたメッセージを見て徐々に思い出し、すべて思い出したことをきっかけにイタリアへ……というあたりが自然だろうか? にしても、いくら失った記憶を取り戻したからといって現在築いた家庭を置いてジョヴァンナにやり直しを持ちかけるアントニオはよくないと思った。気持ちはわかるが、ロシアにいる妻にも娘にもなんの罪もないのだ。そしてジョヴァンナの人生だって進んでいる。愛が燃え上がるのに時間はいらないかもしれないが、時の流れが愛を難しくすることはいくらだってある。
最後、ロシアへ戻るアントニオを見送るジョヴァンナの場面が、その昔に戦争へ行くアントニオを見送った場面と重なった。アントニオが戦争を振り返って言った「あの時ぼくは死んだ」というセリフを考えるに、最初に駅で見送ったアントニオは死んだ。そして最後見送るアントニオも、今後一生会うことはないだろうと思うと再びの今生の別れなんだろうなと思った。鑑賞後の感覚が「なるほど名作」というずっしり感だった。

去年マリエンバートで L'Année dernière à Marienbad(1961)

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数年前に4Kデジタルリマスターの上映告知を見てなんとなく記憶に残っていた作品。
観てる最中の感想としては「なにか思い煩っているときに見そうな夢だな」という、ようは解釈が難しい作品だなという印象があった。完全に私個人の空想で解釈するなら、ミュージカル『エリザベート』の大枠である「死後の世界の再現劇」っぽいか、と思った。あのバロック調のホテルの紳士淑女はみんな死んでいるか、もしくは何かホテルという場に関連した強い思い、感情、とにかく生身の人間ではない何かが人型をとっていて、囚われた過去をなぞり続けている、そんなような。そして男Xは女Aとの記憶を、さながら『羅生門』みたいにこうだったか、いやこうではない、いやこうだったはず、と語りで浮き上がらせる。最後、約束の刻限を待っていた女Aと男Xがホテルを出ていくところは『エリザベート』ラストのシシィとトートっぽい、と思ったらなんとなく理解できる気がした。
そんなわけでストーリー解釈はすっぱりできたわけではないが、画面の美しさは難しいこと抜きにして堪能できた。あと女Aことデルフィーヌ・セイリグ、『ジャッカルの日』の男爵夫人ってマジですか?


今年のラインナップはご覧の通りアラン・ドロンに持っていかれたと言っても過言ではない。もう新たに追悼特集と銘打った催しが行われる気配もいまのところ無いので、年が明けていくことに寂しさも感じている。とはいえ未見の作品でソフト化されているものもまだまだたくさんあるのでゆっくり観ていこうと思う。そもそも追悼特集で観た作品もまだ全部は文章化できていないので、せめて年末年始の休暇の間に書き上げてしまいたい。しかし『山猫』は原作も読み始めてしまったので、それを読んでから書くとなると……先は長い!

それから読み物といえば、早川雪洲の名前が出るとのことでナタリア・ギンズブルグの『ある家族の会話』を買った。こっちも読まないといけない。早川雪洲の言及箇所は読んだが、かといってそこだけ読むのも作品に対して失礼な気がするので全部読もうと思う。やることしかないまま2024年と2025年の間を飛び越えていきそう。おわり。

*1:美女と野獣』のガストンは毎日卵5ダース、つまり60個食べているそうだが、ジョヴァンナとアントニオがふたりで24個分を持て余しているのを考えると、どう考えてもガストンのレベル感がおかしい。たぶん何かの間違いでガストンが通りかかったら全部食べてくれたと思う

*2:場面ごとにフィルムの色を染める演出。たとえば夜の場面は青、など。この『ひまわり』で言うなら、(制作陣が染色をイメージしたかはわからないが)戦場だから血の色で赤かな、と思った