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平均よりちょっとだけ多めに映画を観る人間の雑記

私はまだ仮縫いが終わったばかり 『華麗なる闘い』感想

最近私が熱を上げている平田昭彦が出ていると知ったので観た。(ものすごく簡潔な成り行き)
ソフト化されていない映画らしく(おかげで貼れそうな画像もちょうどよい紹介動画もない)、東宝~~~ソフト化するか東宝名画座で配信して~~~~~~

清家隆子は、戸田洋裁学院の中からスカウトされ、高級洋装店「パルファン」に、勤めることになった。その経営者は、パリ帰りの松平ユキ。そこで隆子は、パルファン式の特殊な採寸裁断等に感嘆の目をみはった。しかし、最も隆子を魅了したのは、ルイ王朝風の豪華な「お店」そのものだった。「このお店を自分のものにしたい!」という隆子の願いは、いつしか決意へと変わっていった。そんな折ユキが経営不振をよそに、パリへと旅だった。後を託され張り切った隆子は、新企画をうち出し、その成功によって、一躍ファッション界の新星として、脚光を浴びるようになるが…。

華麗なる闘い(日本語字幕放送)|衛星劇場

※以下、ネタバレ注意

 

さらに結末まで言ってしまうと、
隆子はブランドをさらに盛り上げる手段としてファッションショーを企画する。ここで自分の名を売って独立しようと張り切る隆子。ユキにもショーに出す服のデザインを送ってもらおうと手紙を書き続けるが一向に返事はない。彼女に愛を告げるユキの弟・信彦に目もくれずショーに向けて仕事に打ち込む隆子だったが、直前になって音沙汰もなくユキが帰国。ショーの主役はユキに取って代わられ、披露される彼女の圧倒的なセンスに隆子は衝撃を受ける。夢破れた隆子は荷物を持って楽屋を立ち去り、「私の人生はやっと仮縫いが終わったばかりだ」と思いを新たにする。

ファッション業界の女の戦いというとドロドロしたイメージがあったが(一条ゆかりの『デザイナー』を読んだイメージが強いのかもしれない)、爽やかな終わり方で良かった。

ものすごく私情なのだが、主人公・隆子を演じる俳優(内藤洋子)が友人に雰囲気がそっくりで心のなかで叱咤激励をしながら観てしまった。生き生きと夢を追い、着実に足場を固めていく彼女はとても輝いている。彼女のワンマンぶりに不満を漏らすスタッフたちを、賃上げで完全に黙らせる手腕が最高にかっこよかった。欲を出しすぎたかラストでは足元をすくわれる結果になったが、いつかきっと報われてほしいなと思った。

ユキは本当にずるいと思う。パルファンの経営が傾いたタイミングでそれを隠したまま隆子に店を任せてパリへ逃げ、いざ店が盛り返したら隆子の努力に乗っかる形でショーに参加し、その圧倒的な才能で隆子を潰す。でも、ユキも過去に似たようなことをされてきたのかもしれない、なんて思った。それでもなお生き残って一線で活躍しているのが彼女の強さなのかもしれない。
ついでに書くと、ユキのファッションショーの場面が良かった。真っ白なステージに色鮮やかな衣装を身に纏い、軽やかなステップを踏むモデルたち。パリ帰りというのもあって確かにあの頃のフランス映画っぽい(『シェルブールの雨傘』とか『ロシュフォールの恋人たち』チック)テイストだな~と思った。それから東宝映画は音楽や歌唱シーンが印象的な作品が多い(『青い山脈』とか、『暗黒街』シリーズもそうかも)ように感じていたのだけれど、ショーの場面でもそれが存分に生かされている気がした。

そのショーを見て呆然と楽屋に戻る隆子。そこへ現れるユキ。「清家さん、あなた独立なさるそうね。がんばってね」。
この「独立なさるそうね」はこの作品における殺し文句である。物語の序盤、パルファンのNo.2であった小式部も、「あなた独立なさるそうね」とユキに店を追い出されている。当時、小式部が去る姿を隆子はそっと門の影から見守っていた。しかし今や隆子本人が小式部と同じ立場である。
ユキは自分の元から去ろうとする人間に至極冷淡だ。ユキの弟・信彦も隆子に対してやや愛が重め(そして彼女が追い出される際には「好きだったのに…」と突き放す感じ)だったので、この姉弟は揃ってそういうタチなのだろうか。

夢やぶれ、ショー会場であったデパートを出ていく隆子。きらびやかな内装が皮肉に見える。物語の中盤で「私はまだ仮縫いが終わったばかりよ」と自分の人生、そして若さを喩えていた彼女(記憶が怪しいが傍に居た贋作画家の男がそう言っていたのかも)を思い出し、私は「そうだよね、隆子の人生はまだこれからだ」としみじみしていた。
が、最後にわざわざ字幕で「私の人生はまだやっと仮縫いが終ったばかり」(本縫いが終わったときはどうなっているだろう……的な文が続く)と出た時はずっこけそうになった。いやそこは観客の解釈という名の余白に委ねていいのでは!? と思った。それか隆子に言わせるくらいがいいんじゃないだろうか。なぜ字幕を選んだんだろう、原作が小説だから?(まさかそんな安直な理由でもあるまいし) と締めだけはモヤモヤしたが、全体的には良い作品だったと思う。俳優目当てで観たが良作に出会えてよかった。

サクセスストーリーといえば『イヴの総て』なんかが有名だが、あの作品ではイヴが成功すると同時に第二のイヴの存在が示唆されて終わる。一方、『華麗なる闘い』で最後隆子は夢破れてしまったけれど、その姿もまた第二の小式部かもしれないし、もしくは第二の松平ユキになり得るのかなと思った。

ちなみに平田昭彦はデパートの企画系らしき部署のお偉いさん的な役だった(解像度が低い)。お役人とか銀行員とか博士とかPDグレースっぽい役が多い気がする。