郵便配達はベルを鳴らさない

平均よりちょっとだけ多めに映画を観る人間の雑記

最近観たもの『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』『ラストエンペラー』

近頃バタバタしていたのでとても久しぶりの更新になってしまった。
社会人って本当に時間がない。働きながら趣味やその他生活を充実させている方々を尊敬するばかりである。

近頃観たものについてつらつら書く。

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

まずこちら。

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経営するコインランドリーの税金問題、父親の介護に反抗期の娘、優しいだけで頼りにならない夫と、
盛りだくさんのトラブルを抱えたエヴリン。そんな中、夫に乗り移った“別の宇宙の夫”から、
「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と世界の命運を託される。
まさかと驚くエヴリンだが、悪の手先に襲われマルチバースにジャンプ!
カンフーの達人の“別の宇宙のエヴリン”の力を得て、闘いに挑むのだが、
なんと、巨悪の正体は娘のジョイだった…!

一言で表現するなら「もうめちゃくちゃだよ~!」という感じ。ぶっ飛びまくりである。世界線が。冒頭の場面で中国語(おそらく)と英語が入り交じる会話が展開されていて、そこでもう私は頭がグラグラした。本筋はそれどころじゃないぞ。
あと私はアンナ・メイ・ウォンが大好きなので、中国系移民の暮らしぶりが興味深かった。まずエヴリンの家がコインランドリーを経営していることに「あ~」となった*1。そしてエヴリンの父が中国語話者、エヴリンと夫は中国語+ある程度の英語、娘ジョイがバリバリの英語話者なことにも「移民って世代を経るとこうなるのか」という気づきがあった*2

そしてアカデミー賞受賞! めでたい!
授賞式に先立ってのインタビューで、エヴリンの父を演じたジェームズ・ホン(御年94)がイエローフェイスやパールバックの『大地』の映画版について話していたので、リンクを貼っておく。字幕はないけど。共演者としてクラーク・ゲーブルの名前が出てくるのにびっくりする。

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キー・ホイ・クァンミシェル・ヨーもおめでとうすぎる。特に主演女優賞は、過去にマール・オベロンのノミネートはあったものの、アジア系の受賞は初めてだそう。
私は一生早川雪洲やアンナ・メイ・ウォンの話をし続けているので、彼らがさんざんっぱら苦しんで葛藤したステレオタイプキャスティングだとか、アジア系は悪役しかできないとか、そうした歪さが100年かけて好転してきたのが嬉しいなとしみじみ。

ラストエンペラー

ラストタンゴ・イン・パリ」「1900年」で知られるイタリアのベルナルド・ベルトルッチ監督が清朝最後の皇帝・溥儀の生涯を映画化し、1988年・第60回アカデミー賞で作品賞をはじめとする9部門に輝いた歴史大作。溥儀の自伝「わが半生」を原作に、激動の近代史に翻弄された彼の人生を壮大なスケールと色彩豊かな映像美で描き出す。
1950年、ハルピン。ソ連での抑留を解かれ母国へ送還された大勢の中国人戦犯の中に、清朝最後の皇帝・溥儀の姿があった。手首を切って自殺を図った彼は、薄れゆく意識の中、波乱に満ちた自身の半生を思い起こしていく。

かねてから観てみたいとは思っていたが、『映像の世紀』で満州帝国回を視聴したこと、また友人がこの作品を鑑賞していたのでようやく観るに至った。
英語で話が進んでいくのには面食らったが、よくあることである。なにせドイツ軍人が英語で話す世界線がごまんとあるし、ちょっとくらい紫禁城で英語がオフィシャルな言語であってもおかしくない。あとで友人と「宦官って現実には英語が話せたのかな」「英国人と紫禁城の宦官の会話って成り立つの?」「じゃああの眼鏡の話どうなるの」などと話し合った。
ピーター・オトゥールが出ていたのにびっくりした。『アラビアのロレンス』(全編まだ観られていない)や『将軍たちの夜』のギラギラとした容貌のイメージが強かったが、今回は年を重ねてなんだかマイルドな雰囲気で不意を衝かれた気分。
ベルトルッチ作品は以前『暗殺の森』を観たことがあって、時系列を行き来する構成が共通している気がした。一作しか観ていないのに共通点を考えるのもどうかと思うが。あと『暗殺の森』で主人公が階段を登っていく影だけが映るシーン(けっこう冒頭の方)がなぜだか印象に残っていて、ライティングにこだわっているのかなあとぼんやり思ったのだが、今作は色彩が印象に残った。なんといっても黄金色の豊かさ。ラストシーンなんか特にそうである。
それからこれは脇道にそれる話だが、大島渚が制作を予定していて資金難で頓挫した『ハリウッド・ゼン』なる作品がある。早川雪洲と当時二枚目スターとして人気を博したルドルフ・ヴァレンティノを描いた作品だったらしいのだが、この作品で早川雪洲としてキャスティングされていたのが坂本龍一(ご冥福をお祈りします)。『ラストエンペラー』では甘粕正彦を演じている。そして雪洲の妻・青木鶴子を演じるはずだったのが、今作で溥儀の第一后を演じているジョアン・チェン。
『ハリウッド・ゼン』、観たかったんだが~~~~~!!!!!????

魂の叫びで〆ることとする。
途中で甘粕正彦が「日本こそがアジアを支配する民族」みたいな話をブチ上げていたの怖かったな。政治上の大義名分として「仮」に掲げていたものを、時代を経るにしたがって後の世代がマジで信じるようになっちゃったんだろうな、という話を友人とした。思想とかは詳しくないので知らないです。
あとベルトルッチ関連で思い出したけど、『暗殺のオペラ』って作品もあるらしいよね。毎回自分が鑑賞済みなのは森かオペラかわからなくなる。オペラの方も観たい。

ものすごくとりとめのない文章になってしまった。「最近ブログ書けてないな」という気持ちはずっとあったのだが、早川雪洲の誕生日にあたって「今日書かないでいつ書くっていうんだよ」の気持ちになった。早川雪洲お誕生日おめでとう。早川雪洲を祝う気持ちだけで勢いでキーボードを叩き続けている。
そういえば人間誕生するということはいつか死ぬということでもあるが、ヘルムート・バーガーが亡くなったそうですね。ちょっとショックである。『ルートヴィヒ』の彼は本当にきれいで(その美しさ端正さが、水彩画を上から水でさらにぼかすかのように病みやつれていく姿も印象的だった)、ロミー・シュナイダーエリザベートとの並びがすごく良かった。『地獄に堕ちた勇者ども』が未履修であることがちょっと許されない状況になってきた。

話がしっちゃかめっちゃかなのでおしまいにする。

*1:アンナの家もクリーニング屋だった。中国系移民あるあるなのか。

*2:アンナ・メイ・ウォンは中国系三世で、中国語は話せなかったらしい。