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平均よりちょっとだけ多めに映画を観る人間の雑記

クロスオーバーってたいへんだ 『リーグ・オブ・レジェンド 時空を超えた戦い』感想

私はクロスオーバーという概念が大好きである。
自分の好きな作品のキャラクター同士が同じ世界線に居るなんて一度で二度おいしい。一石二鳥。もう最高。
ついでに言うと自分でクロスオーバーを空想するのも大好きである(最近思ったんだけど、初代ゴジラの芹沢博士と『海底2万マイル』のネモ船長って仲良くできそうじゃないですか? 誰かクロスオーバー書いてほしい。こう、たとえば芹沢博士が海底でオキシジェン・デストロイヤーを起動させて死んだと思ったものの目が覚めたらノーチラス号の船内で云々みたいな以下略)

さて、そんなクロスオーバー大好き人間が行き着いたのは『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』なるアメコミの存在である。19世紀の文学作品を出典としたキャラクターたちが出てくるらしい。そんなの絶対面白いじゃん。
映画版もあるよ! というわけで『リーグ・オブ・レジェンド 時空を超えた戦い』を観るに至った。

 

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古典文学の世界的ヒーローたちがジャンルの垣根を越えて一堂に会し、悪の組織に立ち向かうSFアクション・アドベンチャー。19世紀の小説から誕生した個性豊かな7人の勇者たちが、世界滅亡を救うために結束する姿をファンタジックかつ迫力満点に描く。主演はショーン・コネリー。監督は「ブレイド」のスティーヴン・ノリントン
 1899年、ロンドン。英国銀行が世界征服を企む鉄仮面のリーダー“ファントム”率いる
謎の軍団に襲撃された。一味は金品には手をつけず、古い海上都市の設計図面だけを盗んでいった。危機感を感じた英国政府は世界大戦の勃発を防ぐため、冒険家アラン・クォーターメインに対抗チームの招集を依頼。かくして、クォーターメインのもとにトム・ソーヤー、透明人間ロドニー・スキナー、ジキル&ハイド、ネモ船長、不死身の男ドリアン・グレイ、ヴァンパイアのミナ・ハーカーという強者たちが集い、7人の超人同盟“ザ・リーグ”が結成される。

映画 リーグ・オブ・レジェンド/時空を超えた戦い (2003)について 映画データベース - allcinema

※以下、ネタバレあり

まず文学作品からのキャラクターたちにテンションが上がった。登場する人物たちとしてはおおよそ、

アラン・クォーターメイン(『ソロモン王の洞窟』)
トム・ソーヤー(『トム・ソーヤーの冒険』)
ロドニー・スキナー(『透明人間』からの翻案)
ジキル&ハイド(『ジキル博士とハイド氏』)
ネモ船長(『海底2万マイル』)
ドリアン・グレイ(『ドリアン・グレイの肖像』)
ミナ・ハーカー(『ドラキュラ』)
ファントム(『オペラ座の怪人』?)
M(『007』?)→ジェームズ・モリアーティ(『シャーロック・ホームズ』)

といった具合。『海底2万マイル』と『ジキル博士とハイド氏』は読んだことがあるし、『ドラキュラ』はコッポラのを観たし、『オペラ座の怪人』と『シャーロック・ホームズ』シリーズは大好きなので観ながら手を叩いて盛り上がった。
『ソロモン王の洞窟』だけはこの映画を通して初めて作品の存在を知ったのだが、演じているのがショーン・コネリーだったので「つよそう」というイメージだけは持った。

また、台詞回しもなかなか洒落ていた。大英帝国の危機ということでアランがさっそくロンドンへやってくると、「早いご到着ですね」「『八十日間世界一周』のようにはいかんよ」との会話。そりゃあフィリアス・フォッグ氏のように一か八か滑り込みで到着だったら大変である。『八十日間』はネモ船長の『海底2万マイル』と同じくジュール・ヴェルヌの作品でもあるので思わずニヤリ。
そして英国銀行を襲った犯人がファントムであるという旨が説明されると、アランは「カゲキな仮面だな(very operatic)」と返す。歌劇(オペラ)と過激をかけてる字幕の人上手すぎ、と思うと同時に「あっ、これファントムって『オペラ座の怪人』のファントムなの?」と気づく。

そして人物たちにテンションが上がるのはよいのだが、それと同時に立ちはだかるキャラクターの扱いに関する問題が発生した。

まず「大英帝国の危機」という目的の元に集まった人間の中にネモ船長がいてびっくりした。原作であんなにイギリスのこと嫌いだったのに……。とはいえ、アランも「大英帝国が戦争になると植民地も巻き込まれる」という考えでこの同盟に参加しているので、ネモ船長も同じなのかもしれない。あと話の性質上当たり前といえば当たり前だが、チームにずいぶん協力的でちょっと意外だった。

あと先述のファントム。これ『オペラ座の怪人』である意味、ある? と思った。後でファントムが実はMでした! ということが判明するので、「仮面で顔がわからない」という点が重要だったのかと思った。逆にそれ以外の文脈で『オペラ座の怪人』である必要性はない。Mことモリアーティ教授、犯罪界のナポレオンの割に作り込みが雑すぎませんか?

そしてM。最初はMということで007っぽく見せていたが、実はモリアーティ教授であったことが判明する。
判明の手法も実にお粗末である。ノーチラス号の船内にレコードが置かれており、そこの音声が「実はこれこれこういうことでした!」とご丁寧にすべてを暴露してくれるのである。 しかもよせばいいのに、「このレコードを聴き終わる頃には(なんかすごい仕掛け)で船が爆発します」と予告して終わる。親切か? 何やってんの? モリアーティ教授は証拠を一切残さないからシャーロック・ホームズにとって手強かったんじゃないの?
その後、無事に彼らによって拠点を発見されてボコボコにされたモリアーティは、小物感満載の捨て台詞を吐いて逃亡していく。あまりにもひどい。よくこれでロンドン中の犯罪を手ぐすね引いていられたものである。よっぽどスコットランド・ヤードもひどかったのかもしれないが、こんなレベルの悪党のためにホームズはライヘンバッハで死闘を繰り広げたんですか? と思った。世界屈指の名探偵を仮にも手こずらせた悪役なら、格があってほしかった。

上記の辺りが気になるし、脚本の力技感があるので「バトルはすごい」というところでずっと保っていたと思う。ドリアン・グレイとミナ・ハーカーの関係性も意味有りげにしつつ結局詳しい説明はあまりなかった(と思う)し、途中ドリアン・グレイが裏切ってもそういう流れです! という印象しか受けなかった。

というわけで、設定にはテンションが上がったが調理がお粗末で残念だった。ショーン・コネリーが監督と喧嘩をしていたらしいのもなんとなくわかる気がする(どういう理由か知らないが)。大人数のクロスオーバーとなると、一人ひとりのキャラクターの掘り下げが難しくなってしまうのだろう。もったいない気はする。原作アメコミだとまた違うんだろう。その点(あまり観ていないけど)マーベルはヒーローが多そうなのに出るシリーズはたいていヒットしているイメージがあるのですごいなと思った。