郵便配達はベルを鳴らさない

平均よりちょっとだけ多めに映画を観る人間の雑記

100年前のハリウッドスターな推しのMBTIが知りたい!

『MBTI』やら『16タイプ性格診断』というものをご存知だろうか。
人間の性格を外向/内向、感覚/直感、思考/感情、判断/知覚という観点から16のタイプに分類する性格診断である。詳しくは以下のサイトにでも。

www.16personalities.com

私の周囲で今流行しており、みんなで診断したり、いろんなサイトで出た結果を比べたり、好きなキャラクターのタイプを考えてみたりと楽しんでいる。
ちなみに私はINTPもしくはINTJ(内向/直観/思考/知覚or判断)という結果が出る。

サイトによっては「同じタイプの有名人・アニメキャラクター」が表示されることもあるし、こんなサイトもある。

character-seikaku.memo.wiki

友人は自分の好きなアニメキャラなどのタイプを探しては盛り上がっているし、私自身も「好きなあの小説の登場人物○○タイプなんだけど! こっちも同じ! 私の初恋泥棒のアニメキャラも同じ!なにかの陰謀では!?」と大騒ぎしている。

好きなフィクションのキャラクターについて調べ尽くしたあと、ふと「私のめちゃくちゃ””推し””であるハイパーグッドルッキング日本人ハリウッドスターこと早川雪洲ってMBTI、何……?」ということをひらめいた。
しかし現代の著名人や歴史上の偉人ならまだしも、早川雪洲はこうした性格診断サイトの「こんな人が同じタイプです」欄に載るには少々マニアックな存在である。これが1910年代アメリカの新聞とかに載ってる診断なら間違いなく早川雪洲も取り上げられただろうに。くやしい。それにこの世の中に私以外に「早川雪洲のMBTIが知りたい」という衝動にかられている人間もおるまい。居たら先方の腕をもぎ取る勢いで握手したい。いっそ腕を持ち帰りたい。

そこでたどり着いたのが海外サイトである。いろんなキャラクターや俳優や歴史上の人物のMBTIについて議論や投票がされている。物は試しでSessue Hayakawaを検索してみる……? ある気がしないけど……。

 

 

あった。

 

世界、広え~~~~~~~~~~。

 

さすがにびっくりした。「自分と同じことを考えている人間がまさか存在したとは」という驚きについて世界のスペースを広いと表現するのが正しいかはたまた狭いと表現すべきかはわからない。とにかく衝撃である。私以外に早川雪洲のMBTI考えよっ☆彡って思った人、いたんだ。腕、もがせてもろていいですか?

ISTPがどんな性格か説明を抜粋してみる。

巨匠型の人達は、自らの手や目で探索するのが大好きで、冷静な理性と旺盛な好奇心で周りの世界に触れて観察します。生まれながらの生産者で、次から次へと企画を移りながら、楽しむために便利な物や非日常品を作り、行く先々で環境から学びます。整備工や技術者が多く、手を汚しながら物を分解して再びひとつにまとめ、元よりも少しだけ良い物を作り上げることをこの上なく楽しみます。“巨匠”型の性格 (ISTP) | 16Personalities

この他に特徴として、

・楽観的でエネルギッシュ、冒険心が強くリスクを恐れない
・アウトドアが好き
・ピンチに強い
・冷静で口数が少ない
・あまり社交的ではなく集団行動が苦手
・飽きっぽい
・率直で正直、見栄をはらない

あたりが挙げられた。
「わ、わかる~~~~」となった。

まず「楽観的でエネルギッシュ・冒険心が強くリスクを恐れない」という点に関して。
早川雪洲「なんでそんなことしたん?」と言いたくなるほど突飛なエピソードの持ち主で(本人が見栄を張っている可能性もあるが)、やれ「初対面の日本人劇団の座長に『お前たちの芝居は下手だから俺に仕切らせろ』と言ってそのまま不如帰の芝居を打って成功した」だのシカゴ大学の歓迎パーティーでスピーチを頼まれたので片言ながら勢いで喋ったら場が湧いた」やら「当時人気だった『颱風』という芝居をやったら観に来た映画監督からオファーが来たのでn倍の額ふっかけたらそのままOKされた」だの「フランスで海軍全面協力で撮影中、臨時海軍大佐の称号をもらって軍の機密である機械操作も好き放題やった」だのいろいろと書籍に記されている。この謎の自信はどこから? というのが疑問だったのだが、ISTP型の特徴ならまあなるほどと……なるのか……?

「アウトドアが好き」に関してはもともと海軍を目指していたこともあってか、剣道も柔道もボクシングもやったらしい。あとは素潜り*1なども。

「ピンチに強い」はどうだろう。逆境となり得た環境を生き抜いてきたことは確かである。アジア人差別の苛烈な時代に二枚目スターとしてハリウッドで活躍し、言語の壁はありつつもなんやかんやトーキーの時代も映画に出続け、ナチス占領下のパリにとどまったときも生き延びては終戦後に残留日本人の救出に奔走し。これだけやってればそれは強いだろう。

さて、「冷静で口数が少ない」や「社交的でない」については本や新聞の記述から抜粋してみよう。

雪洲はどちらかと云えば天才肌で、人との交際、応対等はあまり得意でなく、そういう方面のことは悉く、雪洲に代わって夫人がやって行かねばならないのです。(森岩雄早川雪洲』)

夫人というのは青木鶴子のことである。彼女も草創期のハリウッド映画に出演しており、なんなら映画俳優としてのキャリアは雪洲より長い。川上音二郎の姪っ子だが、いろいろあってアメリカに育っている。詳しくはWikipediaでも。

青木鶴子 - Wikipedia

また同書に掲載のある外国人の話では、

雪洲は黙り屋で、時々淡い微笑をうかべて口をほんの少し開く程度だが、それも極低い声で話す。
だから随分冷たい感じのする人の様に思われるが、時には馬鹿に陽気にはしゃぎ出すこともある。それというのも彼が芸術家であるからだろう。

らしい。一方で1921年のイギリスの新聞には、

早川雪洲は5フィート7インチ(170.18cm)である。他の多くの東洋人と異なり、彼は常に快活(cheerful expression)で、人情味のある笑み(a smile full of humor)をしている。(中略) 彼が話すときは大きな身振りもなく、静かで控えめな物腰で他人に好ましい印象を与える。

と書かれている。先程の引用とおおよそ似た内容である。笑顔とか快活云々については捉え方にもよるだろう。「他の多くの東洋人と異なり」という点が重要なのではないかと個人的には思う(宮尾大輔氏の書いた記事で「雪洲は『アジア』イメージの体現と同時に映画会社側は『文明人』というイメージ付けも狙っていた」という内容のものを読んだことがある。事実はともかくこれも『文明人』アピールだろうか。アジア人は気に食わないけどセッシュウはご覧の通り別枠、みたいな)。
また、中川織江氏の本を読む感じ、①早川雪洲は日本の映画界とはあまり反りがあわずむしろ実業家や政治家との方が仲が良かった、②日本国内で何かと誤解されがち(排日映画に出ただとか国賊だとか)であったが本人は弁明をする質ではなかった、といったところもそれらしく見える。

「飽きっぽい」は正直よくわからない。ハリウッドでハワースピクチャーズ(自前の映画製作会社)を発足した後も、何度も自分の会社を立ち上げようとして頓挫しているがそれは飽きっぽいというよりタイミングに恵まれていないだけのような気もする。

「率直で正直、見栄をはらない」

これについては正直だいぶツッコミどころがある。
早川雪洲は身長を最大で5cmはサバを読んでいると思われるし、年齢も10歳ほど若く書かれていることもあるし、自伝のエピソードについては「ちょっと自慢っぽく読めてしまうかも」という前置きがありつつ野上英之氏などに「このエピソード、嘘では?」と考察されている。見栄っぱりというか、彼のような境遇では見栄を張るのが仕事だったともいえるのかもしれない。人間の性格をスッパリ16分割するなどどだい無理な話なので、当てはまらない項目もいくつかはあろう。

結論、早川雪洲はおおよそISTPだと私は思う。ISTPに投票した人と解釈一致で握手。
しかし先人は何を思って早川雪洲のMBTIを考え、どの資料や作品をあたって彼がISTPだと判断したのかという方に興味が出てきた。私の知らない早川雪洲関連の資料があるならぜひ教えてほしい!!!! 頼むッ!!!!

余談だが、推しのMBTIはあたりをつけられても私は自分がINTPなのかINTJなのかよくわかっていない。人間の性格はきっちりわけられるものでもないと思うのでまあいいか。

*1:彼は18歳のときに素潜りをしたせいで鼓膜を破り海軍への道が絶たれたのだが……